社会人になったとき、「了解しました」は目上の人に使ってはいけないと教わりました。正しくは「承知しました」。以来わたしは、送信ボタンを押す前に一度手を止めて、了解を承知に書き換えています。もう十年以上、たぶん何千回も。
でも、ふと思ったんです。「了解しました」と言われて実際に怒っている人を、わたしは一度も見たことがない。
怒っている人がいないのに、全員が気をつけている。これは何なんだろう。気になったので、100人に聞きました。
結論から。「了解です」は、多数決で否決されていました
まず、いちばん有名なルールから見てください。「目下の人が目上の人に使うのは失礼だと思いますか?」という質問への答えです。
| 言葉 | 失礼だと思う | 失礼だと思わない | 考えたことがなかった | 不明・無効 |
|---|---|---|---|---|
| 了解です | 27人 | 51人 | 9人 | 13人 |
| なるほど | 26人 | 47人 | 14人 | 13人 |
| ご苦労様です | 49人 | 31人 | 7人 | 13人 |
ビジネスマナー記事で必ず筆頭に挙がる「了解です」は、51人が「失礼だと思わない」と答えました。失礼だと思う27人の、およそ2倍です。「なるほど」も47人 対 26人で同じ形。「失礼だ」のほうが多くなったのは、3語のうち「ご苦労様です」だけでした。
つまり、わたしが十年以上かけて何千回も書き換えてきたあのルールは、そもそも世間の多数決に負けている。ここまでは、まだ「へえ」で済む話です。問題は次でした。
「自分が言われたら」に切り替えた瞬間、怒る人が消えた
同じ人たちに、続けてこう聞いています。「もしあなたが、年下や部下から◯◯と言われたら、どう感じますか?」
一般論ではなく、自分の話です。答えはこうなりました。
「了解です」と言われて失礼だと思う
57人は「気にならない」。22人が「少し違和感がある」止まり。
「なるほど」と言われて失礼だと思う
58人は「気にならない」。
「ご苦労様です」と言われて失礼だと感じる
33人は「気にならない」。41人が「少し違和感がある」。
100人集めて、実際に失礼だと答えた人は「了解です」で4人、「なるほど」で10人、「ご苦労様です」で8人。誰も怒っていません。
いちばん効いたのは、この2つを重ねたときでした。「ご苦労様ですは失礼だ」と答えた49人だけを取り出して、その人たち自身が言われたときの感じ方を見ます。
一般論では
「目下から目上への『ご苦労様です』は失礼だ」と回答
その49人が、自分が言われたら
だけが「失礼だと感じる」。76%は「少し違和感がある」、6%は「気にならない」。
「失礼だ」と断じた本人ですら、いざ自分が言われると8割近くが「ちょっと引っかかる」程度で終わっている。怒っていないんです。
この構図をそのまま言葉にしてくれた人がいました。
了解しましたと言われて嫌な気はしないけど、気にする人がいる以上承知しましたと言った方が無難だと思う
30代・男性・会社員これが全部だと思います。自分は怒らない。でも、どこかに怒る人がいるらしい。だから気をつける。それを100人がそれぞれの席で、同時にやっている。
怒る人は、たぶんどこにもいません。全員が「他の誰か」を想像して、その架空の誰かに向かって気を遣っている。
では、その「架空の誰か」はどこから来たのか
調査ではもうひとつ、「このマナーを最初にどこで知りましたか?」と聞いていました。
ここで「そんなルールは知らなかった。今回はじめて知った」と答えた人が23人いました。ほぼ4人に1人が、このマナーの存在すら知らずに社会人をやっている。
そこで、回答者を「ルールを知っていた人」と「知らなかった人」の2つに分けて、もう一度3語の答えを見てみます。
| 言葉 | ルールを知っていた人 64人 | 知らなかった人 23人 |
|---|---|---|
| 了解です | 39% | 9% |
| なるほど | 38% | 9% |
| ご苦労様です | 72% | 13% |
3語とも、同じ形になりました。ルールを知っていた人のほうが、「失礼だと思う」と答えた割合が4倍から5倍も高い。
教わった場所で細かく分けても、順番はきれいに並びます。「ご苦労様ですは失礼だ」と答えた割合は、学校で習った人が9人中8人ともっとも高く、会社の研修や上司から聞いた人が20人中16人、マナー本やネット記事で読んだ人が27人中18人と続きました。しっかり教わった人ほど、「失礼だと思う」と答えています。
失礼かどうかは、言葉が決めているのではない。教わったかどうかが決めている。ここまで露骨に出るとは思いませんでした。
自由記述に、この数字の答え合わせみたいな証言がありました。75歳の男性です。
了解は便利な言葉でビジネスではよく使う。要は後につける言葉遣いによる。了解致しました、了解しました、この辺はOKな範囲だ。ご苦労様ですも、東北地方ではよく使うと聞いた。過去を振り返れば、会社には風土があって許される言葉遣いだった。いつしか新入社員のビジネスマナー教育が全国的に広がり不適切とされた。これがダメなのはビジネスマナー研修の弊害だと思う。
70代・男性マナーが先にあって、それを研修が教えたのではなく、研修が全国に配られたことで、マナーが生まれた。この人はそれを、生まれる前から生まれた後までを通しで見ている。
「怒っているのは50代の上司」も、思い込みでした
ここで、自分の思い込みがひとつ崩れました。
「気にする人がいるから」と言うとき、わたしが頭に浮かべていたのは、たぶん年上の男性の上司です。送信ボタンの前で了解を承知に書き換えるとき、想像していた顔はそれでした。
回答を性別と年代で割ってみたら、まるごと逆でした。
| 言葉 | 男性 43人 | 女性 44人 |
|---|---|---|
| 了解です | 23% | 38% |
| なるほど | 20% | 38% |
| ご苦労様です | 46% | 65% |
3語とも、女性のほうが「失礼だと思う」と答えた割合が高くなりました。では、わたしが怖がっていた「年上の男性」はどうだったのか。50代以上の男性18人だけを取り出してみます。
50代以上の男性(18人)
「ご苦労様ですは失礼だ」と回答。自分が言われて失礼だと感じたのは、18人中1人。
それ以外の69人
同じ質問に「失礼だ」と回答。怒っていると思われていた側が、いちばん怒っていませんでした。
「ご苦労様ですは失礼だ」と答えた割合がいちばん高かったのは、50代の女性でした。11人中10人、90%です。40代の女性も71%。
そして、3語のどれかで「自分が言われたら失礼だ」と答えた人を重複なく数えると16人。内訳は女性11人・男性5人、そのうち50代以上の男性は2人だけでした。
では、なぜこう分かれるのか。もう一度、情報源を見たら答えらしきものがありました。
| ルールをどう知ったか | 50代以上の男性 18人 | 40〜50代の女性 25人 |
|---|---|---|
| 知らなかった(今回はじめて知った) | 7人(39%) | 3人(12%) |
| マナー本・ネット記事で知った | 4人(22%) | 13人(52%) |
「失礼だと思う」がいちばん多かった40〜50代の女性は、半分がマナー本・ネット記事でこのルールを知っていました。いちばん少なかった50代以上の男性は、4割が「そんなルールは知らなかった」と答えています。
ひとつ前の章と、まったく同じことが出ています。失礼かどうかを決めているのは、年齢でも立場でもない。その話をどれだけ浴びたか、です。
そしてこれは、わたしが読んでいるマナー記事が、わたしを「気にする側」にしていたということでもあります。「気にする人がいる」と書いてある記事を読んだから、わたしは気にする人になった。その記事を、いまわたしが書いている。
正直に書いておくと、実際に「失礼だと感じる」と答えた16人という母数は小さく、1人動くだけで割合が大きく振れます。20代の男性にいたっては1人しかいません。「そういう傾向が出た」以上のことは言えません。それでも、わたしが怖がっていた相手とデータが真逆を向いたことは、書いておきたいと思いました。
マナーが、目的を裏切りはじめている
ここからが、わたしがいちばん書きたかったところです。
調査の最後に「職場の言葉づかいやマナーで『これは気にしすぎだと思う』ものはありますか」と聞きました。自由記述です。何が一番多く挙がったと思いますか。
「気にしすぎ」の例として名前が挙がった言葉
2位「なるほど」9人、3位「ご苦労様」「お疲れ様」各5人。以下、「〜させていただく」「お世話になっております」「お辞儀ハンコ」など。
「了解」です。失礼な言葉の代表ではなく、気にしすぎの代表として、ダントツの1位でした。
マナーは本来、相手に嫌な思いをさせないための道具のはずです。ところが集まった声を並べると、その道具が何をしているかが見えてきます。
マナーがかえって人間関係をギクシャクさせる。「なるほど」と言われてキレた人を見たことがあるが、そういうのは本当に面倒くさい。言葉よりも日頃の振る舞いが大事だと思う。
50代・男性・会社員マナーマナーと言いすぎること自体がハラスメントになりつつあると思いますよ。
30代・女性・会社員これまで了解を使っていたのに承知に統一された、絵文字は失礼と言われたのに今はそうじゃない方がおかしいと思われている
40代・女性・会社員「了解しました」が目上の人に失礼だというのは分かるが、承知しましただと堅苦しくなりやすくなる場面が多く、代替のものがなくて困る。「分かりました」もラフな感じがする。
20代・女性・会社員丁寧さよりも「正しい敬語」を優先しすぎること
40代・女性・自営業ギクシャクさせる。ハラスメントになる。ルールが数年で裏返る。代わりの言葉がなくて困る。丁寧さより正しさが優先される。
相手に失礼がないようにと作られたものが、いま、守るほうが面倒で、守らせるほうが失礼になっている。目的と手段が入れ替わってしまった状態です。
ついでに集まった「これは気にしすぎ」リスト
この自由記述、了解・なるほど・ご苦労様のほかにも、いろんなマナーの名前が挙がっていました。読んでいて素直におもしろかったので、並べておきます。わたしが存在すら知らなかったものもあります。
印鑑の押し方で、上司に対して頭を下げた角度で押すという話を聞いたことがあるが、なんのギャグかと思った。
50代・男性・会社員お辞儀ハンコは意味がわからないし、後から書類を見返すとハンコが乱れて見えるのでやり過ぎだと思う。
40代・女性社外には「様」、社内には「殿」とメールやLINEに書く文化があったが、正直面倒だった
50代・男性・自営業御多忙を使うと、その返信があった場合、相手は忙しくないという意味になるので使うなというのは気にし過ぎだと思います。
40代・男性・会社員メールなど役職のあとに、〇〇部長様と記載する人がいて、モヤモヤした。
40代・女性「とんでもないです。」と言う言葉は文法的には誤りで、正しくは「とんでもない事でございます。」と言うらしいが、正直くどさを感じる。
30代・女性・自営業「小生」という言葉のメールを受け取った時に時代に合っていないと違和感を感じた。
50代・男性・会社員ハンコの傾きで敬意を表す。社内と社外で敬称を打ち分ける。「御多忙」と書くと相手が暇だという意味になるから使うな。どれも、真面目に運用されていた(あるいは、いまも運用されている)ルールです。
そして最後の1つは、いちばん考えさせられました。新しいマナーが生まれる瞬間の話です。
旦那さん、奥さん、お嫁さんという言い方が差別的だから?名前で呼ぶほうがフラットだ、今どきだと言い出した人がいて(60代男性)、名前覚えるのも大変だし間違えても失礼だし、馴れ馴れしくて嫌だし、なんせ不便で困った。実用性も考えて欲しいと思った。
50代・女性言い出したのは1人です。それでも周りは従うことになる。マナーは、たぶんいつもこうやって1人から始まっています。
そしていま、新しいマナーが同じ道を歩いている
この調査では前半で、まったく別のことも聞いていました。LINEの「既読スルー」です。一見関係なさそうですが、並べてみて驚きました。同じことが起きています。
「既読がついてから、どれくらい返信がないと『スルーされた』と感じますか」への答えです。
| どれくらい返信がないと「スルーされた」と感じるか | 人数 |
|---|---|
| 30分以内 | 2人 |
| 1時間くらい | 6人 |
| 3時間くらい | 4人 |
| 半日(12時間)くらい | 21人 |
| 1日(24時間)くらい | 27人 |
| 2〜3日 | 15人 |
| それ以上たっても気にならない | 12人 |
| 不明・無効 | 13人 |
誰も決めていないのに、ボーダーラインは「半日から1日」に集まりました(合わせて48人)。マナー本にも研修にも載っていない期限が、もう共有されている。
そして「あなた自身は既読をつけたまま返信しないことがありますか」には、46人が「たまにある」、12人が「よくある」と答えています。58人が、自分でもやっている。被害者と加害者が同じ人なんです。
ちなみに、既読スルーをどう感じるかへの答えで、いちばん短かったのがこれでした。
ブロックされたのかも?って感じます。
60代・男性笑ってしまいましたが、これも「相手の心を勝手に読む」という点では同じです。そして自由記述を読み進めると、そこには自分を責める言葉が並んでいました。100人中14人が「自分が何か悪いことを言ったのではないか」と書いています。
すぐ不安になってしまう。何か悪いことを書いたかなとか気になってしまって、数日考えてしまう。
40代・女性翌日になっても返事をしないというのは自分はしないので、何か嫌なことをしてしまったかなと少し自分を責めてしまいソワソワします。
40代・女性・会社員誰も「12時間以内に返信すること」なんて決めていません。それでも人は勝手に期限を作り、破られたと感じ、しかもその原因を自分に求めて数日悩む。
この状態を、たった一行で切ってくれた人がいました。
伝えたい内容を見たという事実(既読)だけあればそれ以上は望まない。よってスルーされた…という概念はない。と言うか…「既読スルーされた」こちらからの押し付けだと思う。
50代・女性押し付け。うまい言葉だと思いました。そして「ご苦労様です」も、はじまりはきっと同じだったはずです。誰かの押し付けが、研修に乗って全国に配られ、20年経ってルールになった。
いま目の前で、次のマナーが作られている最中なのだと思います。
マナーは、アップデートしていいはずだ
ここからは、データではなくわたしの意見です。
マナーを撤廃しろ、とは思いません。今回の調査でも「ご苦労様です」だけは56%が失礼だと答えていて、これはまだ生きているルールです。全部同じ扱いにするのは雑すぎる。
わたしが引っかかっているのは、マナーだけが更新されないまま置かれていることです。言葉は変わる。働き方も変わる。メールがチャットになり、上司と部下がSlackで並んで喋る時代になった。それでも「了解です」の判定だけが20年前のままで、しかも誰も見直さない。見直す人がいないから、教える側は安全側に倒して「使うな」と言い続ける。
更新されない理由もはっきりしています。「マナーを守らなくていい」と言う人には何のメリットもないからです。厳しく言う側はいつでも安全で、緩めようと言う側だけがリスクを負う。だからルールは片方向にしか動かない。増えるだけで、減らない。
だから今回のデータには意味があると思っています。減らす側にも、はじめて数字がついた。
そのうえで、わたしがこれからやろうと決めたのは、ひとつだけです。
自分が使う言葉
これまでどおり無難にしておく。コストはほぼゼロだし、相手が「気にする側の1割」だった場合に効く。
他人が使う言葉
指摘しない。「了解です」と言われても、そのまま受け取って仕事を進める。注意した瞬間に、自分が「架空の怒る誰か」になる。
この非対称がいちばんコストが低いはずです。データを見るかぎり、実際に怒っている人は100人中4〜10人しかいない。残りの「少し違和感がある」層は、誰かが指摘して騒ぎにしなければ、そのまま流れて消えていきます。
マナーを広げているのは、たぶん怒っている人ではありません。怒っていないのに「怒る人がいるらしい」と伝えている、わたしたち全員です。だとすれば、止めるのも同じくらい簡単なはずです。伝えるのをやめればいい。
「了解しました」と打って、承知に書き換えずに送る。次はそこから試してみます。
調査の概要と、正直な限界
実施:2026年8月/クラウドソーシング(ランサーズ)のタスク形式で回収
回収数:100人(うち意見として数えなかった「不明・無効」13人。記事中の数字はすべて100人を分母にしています)
回答者:女性44人・男性43人・不明13人/平均44.8歳(中央値46歳・不明14人)/20代8人・30代20人・40代27人・50代25人・60代5人・70代1人
職業:会社員・公務員41人/無職・専業主婦(主夫)20人/自営業・フリーランス18人/パート・アルバイト7人/学生1人/不明13人
「不明・無効」の13人について書いておきます。内訳は、全設問で最短の選択肢を選び自由記述が実質無回答だったものが10人、生成AIに書かせたと判断したものが3人です。後者は文体で当たりをつけ、プロフィールと照合しました。人の本音を聞く調査でAIの平均的な答えが混ざると、いちばん大事な部分が薄まります。
ただ、この13人を消して87人で割り直すと、数字は実際より大きく見えます。そこで母数は100人のまま据え置き、13人は「不明・無効」として各表に残しました。表の人数が、そのままパーセントだと思ってください。
限界も書いておきます。20代の回答が8人しかいません。いちばん「了解です」を使う世代であり、いちばんマナーを押し付けられる世代です。ここが薄いのは弱点です。また、クラウドソーシングの登録者という時点で、在宅で働く人・フリーランスに寄っています。「日本全体の意見」ではなく「100人がこう答えた」として読んでください。
それでも、「失礼だ」と答えた本人の76%が、自分は怒っていないという数字は、わたしにとっては十分すぎるものでした。
言葉のプロは、これをどう見ているのか
最後に1冊だけ紹介させてください。
今回わかったのは「100人がこう答えた」ということだけです。敬語そのものについては、わたしは素人です。この記事の結論、つまり「敬語は変わっていいはずだ」を、言葉を専門にしている人はどう見ているのか。気になって探したら、ちょうどその本がありました。
著者の飯間浩明さんは『三省堂国語辞典』の編集委員で、「了解しました」は失礼ではないと公に言っている人です。第1章のタイトルが「敬う日本語──敬語だって変化する」。そこに「ご苦労さま」と「お疲れさま」の使い分けも入っています。今回の調査で、3語のうち唯一「失礼だ」のほうが多くなった、あの言葉です。
わたしの手元にあるのは100人分の回答だけなので、その先はこちらで確かめてください。
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あなたの職場では、どうですか。「これは気にしすぎだ」と思っている言葉づかい、ひとつくらいありませんか。
この同じ調査では、LINEの「既読スルー」についても聞いています。こちらも、いちばん焦っていなかったのは意外な人たちでした。

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