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人類最速に勝ったロボットは、生き物と並べると6番目だった

「ボルトより速いロボットを、チーターやゴキブリと同時に走らせてみた」と書かれたサムネイル。走る人型ロボット、チーター、ゴキブリがトラックに並んでいる

ロボットが100mを8秒64で走りました。ウサイン・ボルトの9秒58より、0.94秒速い。

ニュースはどこも「人類最速を超えた」と書いていて、たしかにそのとおりなのですが、私は読んでいて数字が体に入ってきませんでした。9秒58と8秒64の差が、どれくらいのことなのか分からない。そこで、あの生き物たちと同じスタートラインに並べてみることにしました。

結果を先に言うと、ロボットは11走者のうち6番目でした。

目次

まず、何が起きたのか

舞台は、2026年8月22日から26日にかけて北京で開かれた第2回世界人型ロボット運動会です。16の国と地域から666チーム、2506台の人型ロボットが集まりました。オリンピック形式の競技会で、100m走もそのひとつです。

優勝したのは、北京の人型ロボット創新センターが開発した「天工Ultra」。会場は北京冬季五輪のスピードスケート会場だった国家速滑館「氷のリボン」でした。

面白いのは、この記録が大会の5日間で3回も更新されていることです。

  • 開会式の予選(8月22日)… 9秒39
  • 準決勝(8月25日)… 8秒86
  • 決勝(8月26日)… 8秒64

同じ機体が、5日のあいだに0.75秒縮めています。人間の陸上競技では起こらない縮み方です。しかも第1回大会(2025年)の最速は21秒台だったと報じられていて(22秒08という報道もあります)、1年で半分以下になったことになります。400mでも、人間の世界記録である43秒03を上回るタイムが出ました。

「人類を超えた」がピンとこないので、並べてみた

それでも、私はまだ実感が持てませんでした。9秒58を8秒64が上回った、と言われても、どちらも「速い」で処理されてしまう。数字を数字のまま見ていると、そうなります。

なので、比べる相手を人間だけにするのをやめました。空・海・陸から11の走者を集めて、同じ100mを同時に走らせるページを作りました。ブラウザで動きます。スタートを押すと、全員が本当に同時に走り出します。

ハヤブサ、スズメ、シャチ、イルカ、ダツ、チーター、ティラノサウルス、ゴキブリ、ウサイン・ボルト、一般の男性、そしてフィジカルAI。この11です。ゴキブリがゴールするまで66秒かかるので、早送りのボタンも付けました。

実際に動かしているところ

ページを触りながら喋っている動画も撮りました。走り出した瞬間にどれだけ差がつくかは、見たほうが早いです。

結果:11走者のうち6番目

着順走者100m
1ハヤブサ(水平飛行)3.27秒
2シャチ4.50秒
3チーター5.95秒
4ダツ6.00秒
5イルカ8.00秒
6フィジカルAI(天工Ultra)8.64秒
7ウサイン・ボルト9.58秒
8ティラノサウルス13.33秒
9スズメ13.85秒
10一般の男性15.00秒
11ゴキブリ66.67秒

ハヤブサ、シャチ、チーター、ダツ、イルカ。この5つに負けています。ティラノサウルスには勝ちました。

ここから先は、私が思ったこと

超えたのは「速さ」ではなく「人間の記録」だった

並べてみていちばん強く思ったのは、これです。ロボットが超えたのは速さそのものではなく、人間が持っていた記録でした。

100mという距離は人間が決めたものですし、平らなトラックの上を二本足で走るという条件も人間の都合です。その土俵の中でいちばん速かったのが9秒58で、それを機械が抜いた。ニュースとしては正しいけれど、「自然界でいちばん速くなった」という話とはまるで別物です。

私たちは、自分を基準にして「超えた/超えていない」を語りがちです。AIの話がいつも「人間を超えるのか」になるのも、たぶん同じ癖だと思います。基準を1つずらすだけで、同じ8秒64が「歴史的」にも「6番目」にもなる。

いちばん効いたのは、ダツに負けたこと

チーターやシャチに負けるのは、まあそうだろうと思います。想定内です。私にとって効いたのはダツでした。

ダツは、サヨリを長くしたような細い海水魚です。時速60kmほどで泳ぎ、最高で70km。100mなら6.00秒で、チーターの5.95秒とほとんど同着になります。光に向かって突進する習性があって、夜釣りの人やダイバーに刺さる事故が起きている魚でもあります。

国の予算と何百人もの技術者を投じて作られた最先端の機械が、名前も知らない魚に2秒以上離される。しかもその魚は、速くなろうとして速くなったわけではありません。速いことが有利だった環境に、ただ長くいただけです。

すごい話を聞いたときに、いちばん効く薬は、同じ土俵に無名の相手を連れてくることなのかもしれません。

ただし、伸び方の性質がまったく違う

ここまで書いておいて、ひっくり返すようなことを言います。この表は、来年には通用しません。

ダツもチーターもハヤブサも、その速さになるまでに何百万年かかっています。そして今後100年でほとんど速くなりません。一方でロボットは、1年で21秒台から8秒64まで来ました。同じ大会の5日間だけでも0.75秒縮んでいます。

次に抜かれるのはイルカ(8.00秒)で、その次がダツ(6.00秒)とチーター(5.95秒)です。この調子なら、来年か再来年にはチーターの線を越えていてもおかしくありません。

つまり「6番目」というのは、今この瞬間だけの順位です。生き物の側の数字は止まっていて、ロボットの側の数字だけが動いている。この表の面白さは、順位そのものよりも、1行だけが毎年上に上がっていくところにあります。

そして、まだ止まれない

もうひとつ、報道を追っていて引っかかったことがあります。

この大会では、ゴールしたロボットが減速できずにフェンスやマットに突っ込む場面が相次ぎました。新華社が「なぜ最後は”壁にぶつかる”のか」という解説記事を出したほどです。その記事で技術者は、最大の性能を出し切るために折衷案をとったという趣旨のことを言っています。

速く走ることと、走り終えることは別の能力なんだと思いました。止まるためには、ゴールが近いことを認識して、姿勢を崩さずに減速して、そのあいだも転ばずにいなければならない。全部を同時にやるのは、全力で走るよりずっと難しい。

ダツもチーターも、狩りの途中で止まれずに壁に激突したりはしません。速さは記録で測れるけれど、止まる能力を測る競技はまだない。フィジカルAIの現在地は、たぶんこの一点によく出ています。

ちなみに、この「速く動けることと、実際に使えることは別」という話は、介護の現場でも同じ形で出てきます。そちらはフィジカルAIで介護はどう変わる?人に残る仕事を考えたに書きました。

数字の前提

ここは正直に書いておきます。実測タイムがあるものはそれを使い、無いものは「最高速度のまま100mを走り切った場合」として計算しました。加速にかかる時間を無視しているので、速度から計算したほうが実際より少し速く出ます。

  • 実測=フィジカルAI(8.64秒)/ボルト(9.58秒)/チーター(5.95秒。2012年にシンシナティ動物園のサラが記録。レーダー計測で最高時速98km)
  • 速度から計算=ハヤブサ(水平飛行110km/h。急降下ならギネス公認で約320km/h)/シャチ(80km/h)/ダツ(60km/h)/イルカ(45km/h)/ティラノサウルス(27km/h)/スズメ(26km/h)/ゴキブリ(秒速1.5m)
  • 目安=一般の男性(15秒)。信頼できる全国平均のデータが存在しないため、こちらで置いた値です

生き物の最高速度は資料によって幅があります。ティラノサウルスは研究によって時速20kmから29kmまで割れていて、ここでは27kmを採用しました。シャチも70〜82kmと幅があります。どれもざっくりの見積もりです。「その数字はおかしい」と思った方は、ぜひ教えてください。ページの数字を直します。

まとめ

100mを8秒64。人類最速より0.94秒速い。でも、空と海と陸から集めた11走者のなかでは6番目でした。

それでも私は、この記録を小さく見せたくて並べたわけではありません。むしろ逆で、この表のなかで、来年ここが変わるのは1行だけだと分かったのが収穫でした。ダツもチーターも、来年も同じ場所にいます。

来年の大会が終わったら、またこの表を作り直します。そのとき、ロボットが何番目まで上がっているか。ページは残しておくので、一緒に確かめてもらえたら嬉しいです。

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サイト運営者のカツです。
私は2017年9月からフリーランスとして活動しています。
主に、Webサイト制作やデザインのお仕事などを行っています。
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