今回は海洋哺乳類の一種、シャチに注目して考えてみます。
海の殺し屋とも言われる巨大な身体を持つ海洋哺乳類のシャチ。実は日本国内の水族館で飼育もされています。
今回は、野生のシャチの生態・社会性から、水族館のシャチについて考えてみようと思います!
まずとても大事なポイントとして!
① 私は水族館は好きです。生き物全般が好きで一人で動物園・水族館に行くくらいです。そこら辺の「かわいい」「雰囲気がいい」「SNSで映える」「デートで行くなら!」みたいなラフな気持ちで水族館好きと言っている人よりも好きです笑
② 私は水族館でイルカ、クジラ、シャチなどの鯨類の飼育に大反対というわけではありません。※否定派では無いですが、かといって肯定派でも無いです。
③ 今回の記事は私の意見を述べるのが目的であって、水族館や水族館で働かれている方を否定するわけでもありません。
実は当ブログ以外に動物や自然などをテーマにした情報メディアを運営しているのですが、今回は個人的な意見を結構書くので、こちらのブログに記します…
Youtubeで当記事の要約ショート動画が見れます!
野生のシャチの生態
シャチは、世界中のすべての海に生息しています。北極海から南極海まで、寒い水域を好みますが、熱帯地方にも見られます。食べ物が不足すると、他の地域に移動することがありますが、一年中同じ縄張りに留まる傾向があります。主に水深20〜60 mの浅瀬に住んでいますが、食べ物を求めて300 mまで潜ることもあります。
参考元:ADW: Orcinus orca: INFORMATION – Animal Diversity Web
野生のシャチの社会性について
シャチは非常に社会的な生き物で、その社会構造の中心には母系のグループがあり、特に母親が重要な役割を果たします。
典型的な母系グループは年長のメスがいて、そのメスがそのグループの母親です。そしてグループのメンバーは、その母親の子孫で構成されています。母親から生まれたオスもメスも生涯母親と一緒に過ごします。娘は自分の子供を持つと母親から離れることがありますが、近くで行動することが多いです。
それにより、シャチは大きなグループになっていきます。このグループには独特の方言を持つことがあるので、シャチはグループごとに声が違うことも!?
このシャチのグループはたまに他のグループと関わりを持つこともあり、それをシャチのコミュニティと言います。このコミュニティこそ、シャチの社会構造の中で最上位の形になります。
例えば、カナダのブリティッシュコロンビア州には北部住民コミュニティがあり、310頭以上の個体がいます。南には絶滅危惧種の南部住民コミュニティがあり、73頭がいます(2020年9月時点)。
参考:What is an orca pod? – Whale & Dolphin Conservation USA
こちらはノルウェーで撮影されてかなり大きな群れになったシャチの様子です。
シャチは群れで生きる生き物
これが今回のポイントです。
家族で群れで生活している。社会性を大事にしている。
この点について考えると、水族館で飼育されているシャチはどうなのか?という疑問に辿り着きます。
水族館の水槽はどれだけ大きくても、シャチが何頭も入る大きさを確保するのはかなり難しいですよね。
これは日本だけでなく世界の水族館でも同じです。
日本の水族館のシャチ事情について
では、日本の水族館では現在どこでシャチを飼育しているのでしょうか。
・神戸須磨シーワールド
2024年6月1日にオープンした水族館です!元々は神戸市立須磨海浜水族園だったのが、リニューアルされた形になります。ここでは、シャチのメス(名前:ステラ)とメス(名前:ラン)が飼育されています。
・名古屋港水族館
ここでは、オス(名前:アース)とメス(名前:リン)が飼育されています。
・鴨川シーワールド
ここでは、メス(名前:ラビー)とメス(名前:ララ)とメス(ルーナ)が飼育されています。
わかりやすく家系図と共に見るとこんな感じです!
ステラとビンゴから始まった
日本の水族館の現在のシャチ事情は、母親のステラと父親のビンゴが1980年代にアイスランドで野生の状態で捕獲されたところから始まります。オスのオスカーもこの時代にアイスランドで捕獲されています。
※現在の水族館のシャチ事情の家系図なので、これまでアドベンチャーワールドなど他の施設で飼育されていた個体は今回は記載しておりません。
ステラとビンゴが国内で繫殖したシャチの子孫が、現在の日本の水族館にいるシャチになります。
つまり、全て家族です!母親のステラから見ると、娘と孫しかいない状態です。
家族がバラバラに!?
日本国内で飼育されているシャチについて「かわいそうだ!」という声が結構上がっています。
2024年6月開園の神戸須磨シーワールドにシャチが移送される際に、「ステラ」「ラン」が選ばれた時も野生のシャチの生態を理解している人々からは否定的な声が上がりました。
この否定的な声の意味はもうわかりますよね?
そう、シャチは母親を中心とした家族で群れを構成しているのです。
つまり、神戸須磨シーワールドに母親と四女が行き、それ以外の水族館で姉妹たちが暮らしているという構図に…
まあ神戸須磨シーワールドが出来る前から、名古屋と鴨川でバラバラではありましたが…
世界の水族館のシャチ事情について
世界の水族館ではどうなのでしょうか。
2024 年 1月時点で、世界中の海洋公園で少なくとも 54 頭のシャチが飼育されています。
- アルゼンチン(世界中の他の海洋公園の繁殖プログラムで使用されているクシャメンクという名のオス1頭は、シャチの仲間なしで何年も暮らしてきました)
- フランス(シャチ3頭、日本行きと報道)
- 日本 (7)
- スペイン (4)
- 米国(シーワールドの3つのパークで18)
- ロシア(1頭+最近生まれた子牛1頭)
- 中国(20、うち13はすべてロシア領海で捕獲)
その中でも多くのシャチを飼育していたアメリカの大きな水族館(というよりテーマパーク)のシーワールドからご紹介します。※シーワールドは、オーランド・ サンアントニオ・サンディエゴにあります。
シーワールドでは現在もシャチを飼育していますが、シーワールドの公式発表で2016年にシャチの繫殖プログラムを終了しています。つまり、現在飼育しているシャチの世代が最後ということに。
これはアメリカのシャチの捕獲・飼育反対運動が2013年のドキュメンタリー映画『ブラックフィッシュ』をきっかけにさらに強まったことに影響するとも言われています。
ブラックフィッシュはAmazon Prime Videoで観れます。
世界の水族館はシャチの飼育を無くす方向に進んでる?
世界の国では、シャチの捕獲・繫殖を法律で禁止しているところも増えてきています。
アメリカ:2016年 米カリフォルニア州で、シャチの繁殖と飼育を禁止する全米初の州法が成立した。カリフォルニア州ではシャチの繁殖を禁止しており、既存のシャチの展示も制限されています。
参考:California bans killer whale theatrical shows and breeding | CNN
カナダ:2019年に「Free Willy」として知られる法律が成立し、シャチを含む海洋哺乳類の繁殖と捕獲が禁止されました。
参考:Canada passes ‘Free Willy’ bill to ban captivity of all whales, dolphins
その他多くの国でシャチの飼育に対する批判が強まっています。
水族館のシャチについて
世界では野生のシャチの捕獲、現在飼育しているシャチの繫殖を禁止することで、今後新たなシャチが飼育されることが無くなる方向に進んでいます。つまりいずれ世界では飼育されているシャチはいなくなる可能性が高くなるということに!
一方日本では、この点についての法律は全然進んでいないように感じるのが現状です。※規制の法律が進んでいない点については、私の調べ方不足の場合あります。その場合はすいません。2024年6月時点。
ただ、シャチをはじめ、イルカやクジラ類の大型海洋哺乳類の飼育については禁止する流れが世界に強まっている傾向を見ると、今後日本でも禁止の流れになっていく可能性は高いと感じます。
まあ、私はイルカ・クジラだけでなく他の哺乳類・魚類なども同様だと思いますが…
水族館の方が長生きする場合がある?
シャチに限らずですが、野生で生きる生き物は短命で終わる場合も多いです。
補食者に食べられたり、獲物を捕らえる狩りが上手くいかなかったり、自然環境に対応できなかったり(地震・台風・吹雪など)と、自然界だからこその過酷な環境がそうさせています。
そのため、体調管理がされていて、食料も毎日もらえる飼育下では長生きする場合が多いです。※狭い空間による多大なストレスが別途発生するとも言われますが…
水族館では動物の研究も進んでいる
動物を飼育下におき、日々体調管理をすることで、多くの動物の生態の研究が進んでいるのも事実です。飼育下にいる動物のおかげで、野生の動物たちが長生きできる環境を人間が提供するのに役立つ場合もあります。
そのため、水族館はただレクリエーションのためだけに生き物を飼育しているのではなく、こういう生き物の研究をする施設にもなっているのです。
すでに飼育下にいるシャチは野生に返した方がいい?
これは難しい問題です。シャチに限らず、一度飼育下になった動物は野生下では短命で終わる場合が多いです。事実シャチに関しては、飼育下から野生下になった個体はすぐに死亡してしまっているようです。
これは、適切に管理された環境下から野生の世界に放り出すことで、様々なことに対処する能力が備わっていないためとされています。
参考:SeaWorld Cares | United Parks & Resorts
そのため、現在飼育下に置かれているシャチに関しては、このまま飼育下におくことが良いと私も思います。
ただこれも新たな試みが世界では試されているようで。飼育下のままにするといっても、水槽ではなく、実際の海の一部に保護空間を設置して、そこで飼育するというもの。
これにより、水槽よりも広く野生環境とほぼ同じ空間でシャチが暮らすことができます。尚且つ保護環境下なので、適切な管理もしやすくなります。
シャチの保護区で先進国になっているのがアイスランドです。クジラ目の脳の専門家であるLori Marinoさんによると、「保護区は避難所であり保護の場所であると同時に、動物を自然な生活に最も近い状態に戻す修復の場でもあります。」とのこと。
参考:Seaside Sanctuaries for Captive Orcas
この保護区の設置は他の国でも検討、予定をされています。
日本の水族館でも実は、海の一部に囲いを作り自然環境に近い状態で動物たちを飼育しているところがあります。
島国の日本は周りを海に囲まれているので、こういう海洋保護区の設置がしやすい地形とも私は思っています。台風や地震などの災害はありますが…(まあそれはどの国でもありえるので…)
そのため、私はこれからの水族館ではシャチを飼育下に置くとしても、全てこういう海の一部の保護区で飼育することがいいんじゃないかなと思います。
シャチを見に来るお客さんもその方がよりリアルに近いシャチの姿を観察できますし。
まとめ
今回は水族館のシャチについて考えてみました。今すぐにシャチの飼育を辞めろ!というような過激派ではないのですが、こういう考えを多くの人が持つことは大事かなと思います。
水族館でシャチを見る時は、ただ「かわいい」「かっこいい」「SNSで映える」「ショーが楽しい」だけでなく、「どういう背景でこのシャチはここにいるのだろう?」とか「シャチの生態」を知ったうえで、観察してもらえたらなと。
そうすることで、シャチを安全な環境下で観察できる機会を提供してくれているシャチに対しての感謝が生まれるし、水族館の存在意義としての、生き物のことを多くの人に知ってもらえるというところに繋がっていくのではと思います。
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